神様の家

こちらはボーイズラブ小説の二次創作となります。
関心ない方、お子様は閲覧なさらぬようお願い申し上げます。

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実はコレ、今年のバレンタインに書いたお話「In other words」の続きのお話を、拍手ページに置いたものなんですが。<笑

あまり時間が経ってしまうと公開するチャンスがなくなってしまう気がして、季節外れではありますが、暑中お見舞い代わりに置いてみました。
<寒い時期のお話で冷えて頂くのもご一興

英田サキ作品「DEAD LOCK」より ディック×ユウトで。

Hなし、ヴァレンタインの翌朝のお話です。

ではこちらから
     ↓






◇ ◆ ◇


              

人生、苦しみの後には喜びが、そして喜びの後には苦しみがやってくる。
そう教えてくれたのは、一体誰だったろう?


今、まさにその苦しみの最中、俺はそれを思い出そうと必死に考えていた。

場所は俺達の真下の部屋に住む老婦人宅、びしょ濡れの玄関をモップで掃除しながら、だ。

昨日のバレンタイン、ディックに贈られたのは一抱えもある100本の薔薇の花束。

俺がシャワーを浴びてる間に、ディックはその花びらの全てをシーツの上に敷き詰め、俺たちはかつて無いほどに激しく熱い夜を過ごした。

そして意識も朦朧としたまま明け方バスルームに運ばれ、二人してシャワーを浴びて…


どうやらそのとき、お互いの身体に貼り付いたままだった花びらの何枚かが排水溝に吸い込まれ、管を詰まらせ、階下の家の天井に水が流れ込んでしまったらしい。

俺とディックの夢のようなひとときは、未明に響き渡る夫人の怒鳴り声で敢えなく終わりを告げたのだった。



「亡くなった主人の大事な勲章が濡れなかったのが唯一、不幸中の幸いだわよ!玄関に繋がるドアから水が流れて来て驚いてベッドから飛び起きたの、危うく腰を痛める所だったわ!」

「本当に、軍人として我がアメリカ国家の為、立派に活躍された亡きご主人の大事な勲章が濡れるようなことがなくて良かったと、私も心から思いますよ。このお写真がご主人ですか?とても優しそうな方ですね、隣に写っていらっしゃる奥様もとてもお美しい!」

さっきから延々30分以上も続く一人暮らしの老婦人のクレームに神妙な顔で頷きながら、ディックがその魅力的な重低音を最大限に生かした優しい言葉を繰り出す。

見れば床には大した被害もなく、濡れているのはほんの一部。
これくらい明日業者を呼んで配管をちょっと手直しして貰えば充分に済む範囲だ。

なのにディックの奴、歯の浮くような台詞をよくもまぁしゃあしゃあと、イイヒト気取りも大概にしろ…

呆れて見上げる俺の視線を軽くいなし、ディックがモップを持ち上げてバケツへと丁寧に戻した。

「他に、水漏れを起こしている部屋はありませんか?もちろん、濡れて使えなくなったものがあればすべて弁償させて頂きます」

ラフなシャツの襟元から覗く美しい鎖骨を意識して見せつけながら、にこやかに笑いかけるハンサムな男に
「そうね…」とわざと考える素振りをする夫人にも、その実まんざらでもないといった様子が伺える。

「まぁ、いいわ…業者に頼まず、すぐに自分たちで掃除に来たことも誠意を感じるし…私も一人暮らしだからなにかと不安で」

「ええ、もちろんです、ご婦人がお一人では不便なこともおありでしょう、何でもご相談ください、さぁ、ユウト、君からもお詫びを」

「すっ、すみませんでした、以後気をつけますので」

一晩中、酷使して使い物にならない腰にさらなるダメージを受けたこっちの身にもなってくれ、とディックに目で抗議しながらも、なんとか謝罪の言葉を口にすると、その態度が気に障ったらしい夫人が皺だらけの眉間にキッ、とさらなる深い皺を寄せた。

「何なの、その偉そうな態度は、こちらはとても紳士的なのに、アナタさっきから本当に嫌々と…なんなら弁護士にでも相談してそれ相当の慰謝料を…」

「ちょっとお待ち下さい、彼が悪いわけじゃないんです…ごめんユウト、君の白い肌に赤い花びらが纏わり付くのがとてもセクシーで、シャワーで花びらが流れてゆくのに全然気がつかなかった僕が悪かったよ…許してくれるかい?」

「ちょ、ちょっと待てよ!どうして、わざわざそんな事…ディック!お前っ」

その時、夫人の表情が一瞬凍り付き、次の瞬間、ハハ~ン、と言ったしたり顔の笑みに変わるのをディックも俺も見逃さなかった。

「ハニー、喧嘩を見られるのは恥ずかしいよ…文句なら部屋に帰って二人きりになってから、ね」

これ見よがしにウィンクを送られると、恥ずかしさと怒りとで、妙な汗が背中に流れる。


ディックが何を企んでいるのかはサッパリ解らないが、こっちはもう一杯一杯、これ以上この場にいるのは無理だ…と思った瞬間。

そのギリギリの俺の我慢は、意外にも夫人の言葉で救われた。


「ええええ、もうわかったわ!いいから、さっさと仲良くお部屋に帰ってちょうだい」

「それはありがたい。私どもの事情をご理解くださって本当に嬉しいです、では失礼」


そう言って、ドアを開けたディックが振り向いて、思い出したように夫人に話しかける。



「そうだ…あの、つかぬことを伺いますが、天国にも神の用意し給うた我々の家があると言う話を、貴女は信じていらっしゃいますか?」

「はい?」と耳に手を充てて夫人が大声で聞き返す。

どうやら彼女は少々耳が遠いようだ。

「神様の家、‘マンション’ですよ」

マンションとは、いわゆるアパートメントとは違い「大邸宅」の意で使われる言葉だ。


それを、ゆっくり発音し、夫人に聞かせたディックが「そうです」とにっこり微笑む。


「ええ、もちろん知っているわ!まぁお若いのに貴方も聖書をお勉強していらっしゃるの?感心だわ」

「ええ、主の教えの中で‘マンション’と呼ぶその家も、是非とも貴女のお住まいの上であるように願っています、それでは」


はぁ?


なんだよ…そのマンションって?

今ひとつピンと来ない、ディックの言葉に俺は小さく首をかしげた。




- - - - - -




「悪かったな…ユウト、そしてよく我慢した!フフっ」

「ったくっ、なんてクレイジーな話だ!どうして他人の家の床を掃除させられた上に、いきなりハニー呼ばわりされなくちゃならないのか説明してくれ!その上、わざわざ俺達の関係を匂わすようなこと、薔薇の花びらの話までするなんて…ディック、お前どうかしてるんじゃないのか?」

部屋に戻り、大声で文句を言いつつ大仰にソファーへと腰を下ろした俺は、隣のスペースに悠然と座っているモデルのようなハンサムに喰って掛かった。

「フン、あれくらいのことで多額な損害賠償請求を回避出来るなら安いものだろう?もちろんわざと言ったんだ、女性は秘密を知りたがる生き物だからな、その証拠に俺たちがそういう関係だと分かった途端、彼女の態度は格段に柔らかくなった…近所は味方に付けておくに限る、俺達のようなカップルなら尚更だ」

「ディック、お前そんなことまで考えて…どこまでも恐ろしい男だな」

「俺は昔から、目的の為なら手段を選ばない、それはお前が一番知ってるはずだろう?」

そう言ってウィンクする男の顔は、悔しい程にクールで男前だ。

外はまだ暗い夜明け前、冷えた身体を暖めようとディックが付けたオイルヒーターが、鈍い運転音を静かな部屋に響かせている。

ヒーターの前では、気持ちよさそうに目を閉じたユウティが、まだ深い眠りの中にいた。



「天国の…マンション、だっけ?それって、マジで聖書にある話なのか?」

「ああ、語源はラテン語で【人が沢山住める場所】つまり、天国の住み家、神様の家と言うわけだ」

「ふぅん…で、それでなんで俺達はわざわざ死んでからもあの神経質なご夫人の上に住まなくちゃならないんだよっ?俺はイヤだ!死んでからだけじゃなく生きてる今だってイヤだよ、そうだ今すぐ引っ越そうぜ!あんなに高慢ちきな婆さんの上に暮らすのはもう金輪際御免だからな!」

口から泡を飛ばす俺に、ディックの優しい手が降りてきて、やんわりと肩を抱かれる。


「そう言ってくれて嬉しいよ、ありがとうユウト…」


え?


小首をかしげる俺に、甘く囁いた男が前に回した手にギュっと力を込めて来た。


「実は少し心配していたんだ、君はちゃんとあの世でも僕と一緒に暮らしたいと思ってくれているのかどうかって」


ディック、バカなことを…心配しなくちゃならないのはこっちの方だ…

そう言いたい言葉をグッと呑み込む。


もしかしたらディックは、天国で待っているあのコルブスに殺された前の恋人と一緒にいたいんじゃないかって。


そう思うと…とても怖かった…


そんなこちらの気持ちに気付くはずもない、ある意味鈍感な恋人にすっぽりと抱き竦められ、どうやら平和な休日の朝を取り戻したと知った俺は、覗き込んでくる青い瞳を見つめ密かに安堵の溜息をついた。


「ユウト、確かに眠っていた君には気の毒だったが、おかげでミッションは成功したよ、彼女は世にも珍しい【信心深いゲイ】に興味津々、これからも多少のことは好意的に見逃してくれるはずだ、たとえベッドがいつもより余計に軋んで派手な音が響いたとしても、ね…んんっ、チュ…」

「朝っぱらから止めてくれっ、また怒鳴り込まれたらどうするっ、それに俺は無神論者だ!断じてマンションなんて信じないっ!男だってお前以外には全く興味はないんだからなっ!」

「フフ、バレンタインのお返しにそんな熱い告白を聞けるなんて、俺は世界一幸せな男だよ。あの婆さんなら耳は遠いし、どんなに激しく愛し合っても聞こえないから安心だ、今から予約しとくのは得策だと思わないか?ん…」


ディックの奴、そんな事の為に、あの世でも彼女の上に住みたいって言ったのか?


バカ…

んんっ、あ…っ、ん……っ、ん…


さぁ続きを、と言わんばかりに、ソファーの上で始まったディックの愛撫は、いつにも増して蕩けるように優しい。

きっとこのSEXも、昨日彼が薔薇を買った瞬間から始まっているSt. Valentine's Dayの続き、いや下手をすれば遠い天国まで続く、壮大な道程の、ほんの一瞬に違いないのだ。


「なぁディック、そのマンションには配管清掃のサービスは入っているか?」とキスの合間に尋ねると

俺をソファーに押し倒しながらディックがもちろん!と答えて笑った。


「任せてくれ、苦しみの後にはいつでも喜びがある、ほら、こんなふうに…」


そう教えてくれたのはこの男だったんだと、そのとき俺は、ようやく思い出した。





Fin.
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by apacheoffice | 2011-08-04 00:23 | 他作家様作品での創作 | Comments(4)
Commented by green-island33 at 2011-08-04 23:56
おばさんはきっと目覚めてしまったねwww
毎晩↑の階からギッシギッシと聴こえてくるワケですね?
ああ、変われるものなら変わりたい!

今日は腰痛に苦しめられたけど
幸せなss読ませてもらって元気でた!
Hアリの続き、また期待してまーすw

Commented by apacheoffice at 2011-08-05 07:25
mokaちゃん

ありがとうございます。
全サに乗り遅れているような私がこんなもの書いていいのか迷いましたが…<くうぅ、雑誌は買えるのに既刊買いが面倒で…ついに脱落

そうだ、創作書いて鬱憤晴らしだ!<自給自足

また、お話きかせてくださいね~。

あ、薔薇ベッドのHですか、それ書いたら合成して上げ直しにしなくちゃですな。<来年のバレンタインぐらいまでにはなんとかします笑
Commented by くるみ at 2011-08-06 17:27 x
DEAD LOCKシリーズ、こちらでin other words読んでから無性に読みたくなり、本屋歩き回って全巻手に入れたことを思い出しました、くるみです(自己紹介がタイバニ調…)

めちゃくちゃ暑い季節に涼しくなるsありがとうございます!二人の気持ちって結構遠回りなんで今回も気持ちが通じ合うシーンが再び見られてよかったです。

最近NYで同性婚が認められたニュースがありましたが、婚姻届出したゲイカップルが本当に嬉しそうだったのが印象的でした。男女でもいつまでも一緒とは限らないし、お互いが想い合って歩んでいけばこのさきもきっと大丈夫!そうユウトやディックに言いたくなりました。
Commented by apacheoffice at 2011-08-08 00:35
くるみさん

おお、私のを読んで全巻お読みになったのですか~!
それはそれは恐れ多い、大変なことですよ!<焦

駄文書き冥利に尽きます、ありがとうございました。

NYのゲイカップル、ついに同性婚オッケーなんですね。
うわうわ、それはよかった。北欧にくらべて遅いくらいでしょうか。
日本でも有史のなかで、今が一番「同性愛が難しい時代」だとあのおすぎさんも言っていますが(笑)誰もが好きな人と当たり前に一緒にいられる、そんな時代になったらいいですよね。

ディックとユウトは甘い新婚生活を送っているみたいで、今でも全サや全プレで続きを読める幸せなカップルです。

私も前回までは追いかけていたんですが、今回ついに脱落…(雑誌が買えたのに痛恨の既刊買い逃し出し忘れ)スピンオフのロブ&ヨシュアの結婚式を見られないショックにガーンとなっていま…爆。
仕方ないから、自分で書いてしまおうかとも思っています。<ヲイヲイ
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