Un piccolo augurio

こちらはボーイズラブ小説の二次創作です。関心ない方、お子様は閲覧なさらぬようご注意下さい。


ロッセリーニ家の息子 守護者 マクシミリアン×ルカ 
(一話完結、Hなし)

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共犯者を読んで、「使用人同士であるダンテとマクシミリアンが会話しているところが見たい」という気持ちがムラムラと湧き上がってちょっと書いたSS。<それどんなムラムラ

時間的には21歳と6歳、パラッツオ・ロッセリーニの館でのお話です。
よろしければこちらから
     








「ルカ様、さあスープを…早くお食事をお済ませくださらないと、この後のあの方のお勉強や仕事に差し支えるんですからねっ!」

聖人たちの描かれた高い天井のダイニング。
給仕係の若い女中が、嫌がる小さな口にスプーンを突きつける。

「あっつい…い、いや……キライっ!」

思わず出した手が高級な白いボーンチャイナの皿へと当たり、ガチャン!と特有の高く鋭い音が響いた。

キャア!と叫ぶ女中の声とともに、マクシミリアンが扉を蹴破る勢いでダイニングへと飛び込んできて、震える小さな身体をしっかりと腕に確保する。

「ルカ様っ!お怪我は、お怪我はございませんかっ!?」

先月ようやく6歳の誕生日を迎えたばかりのルカが、黒目がちの大きな瞳を見開いて放心している。
白いブラウスの襟が本人の呼吸とともに微かに震え、胸には飛び散った液体がところどころに染みを作って浮いていた。

小さな指をそっと手のひらに載せ、一本一本隅々まで舐めるように確認した後、マクシミリアンがホッとしたように小さく微笑む。

「よかった…どこにも火傷はありませんね。給仕の者になにか粗相がございましたか?」


ううん。

と小さな顎が左右に揺れる。

それを見て困ったように目をそらし、マクシミリアンが乱れたアッシュブラウンの髪を掻き上げて、ふぅっ、と大きく息を吐いた。


「ならば、何故このようなことを…たとえお口に合わない物でも、好き嫌いを言わずに食べなければ大きくはなれませんよ。しかも、ここパラッツオ・ロッセリーニで供されるすべての食事はシェフが心を込めて作ったものばかり、名門ロッセリーニ家の一員として、いずれは数多の人の上にお立ちになる貴方様が、下の者の苦労を無にするようなことをなさっては、誰の心も動かすことはできないでしょう。まだ幼いルカ様であっても、ロッセリーニ家の誇りに傷をつけることは許されま……ルカ様、聞いてらっしゃいますか?」

「ま、まくしみりあん…ボク、どして、こんな……」

思うようには出てこない言葉の代わり、なのだろうか。
みるみるうちにその幼い瞳には大粒の涙が溢れ、ついにはポロリ、と零れると、幾筋もの流れとなって顎の下で溜まりを作った。


ルカ様…ここのところ少しまた不安定になっているように思えるのは気のせいだろうか?昨夜も遅くまでむずかって、珍しく夜中に何度も起きては私の腕にしがみついて…

恥ずかしがりやで、多少甘えん坊ではあっても、決して周りの者を煩わずような子供ではなかった。それどころかただの世話役の自分にまで、あれこれと気を使うおよそ子供らしくない面もあり、こちらの方が胸を痛めることさえよくあったのに、と。

『目の前の皿を嫌がって振り落とす』、などという野蛮な行為が、この幼子から出たものとはどうしても思えず、ただ膝にポトポトと涙を落とすルカの存在が、まだ十分に少年の面影を残したこの二十一歳の青年に、大きな溜息と深い戸惑いを与えていたのだった。

するとその時、壁際で事の成り行きを見守っていたダンテが静かに進み出て、小さな背にそっと手を添えた。

「さぁマクシミリアンも困っておりますよ、ルカ様、お食事の続きをどうか召しあがって下さい。今夜のデザートには貴方様のお好きなジェラートが用意してございますから」

ようやく泣き止んだルカの手にフォークを持たせ、マクシミリアンに目配せをして廊下へと促す。

「マクシミリアン、年端も行かない子供に、そんなに理屈ばかり並べても理解させることは出来ないよ。ルカ様はただ、お前が食事時になるといなくなるのがお淋しいのだから」
「しかし、レオ様やエドゥアール様は同じ年の頃にはもうきちんと一人でお食事をなさっていらっしゃいました。私は一日も早くルカ様にきちんとしたマナーを身に付けて頂き、大人と同じように優雅に給仕を受け、紳士然とした一人前の矜持をお持ち頂かなくてはと…」

その若さ故の意気込みを、まぁまぁとダンテが白い手袋で制し、コホンと一つ、バトラーらしい気品溢れる咳払いをした。

「確かに、もうルカ様は、お前が考えているように小さな赤ん坊ではないよ。最近、お前が益々良い若者に成長して、色めき立った館の女中達にあれこれと騒がれているのも当にご承知なようだ。兄のように遊んでくれていたお前が、急に大人になって厳しく接するようになったもの寂しさの原因の一つだろう。さっきの給仕の女中も、お前にあからさまに色目を使っていたのを、多分無意識ではあろうがルカ様がそれを嫌ってああなったと…気づかなかったか?」

「それは、…そのようなことは、私は一切、気づいていませんでした…」

「フフ、まったくお前らしいと言えばお前らしい、疎いのは今更仕方が無いが…ルカ様にとっては兄のように、いや母のように大事なお前を盗られるようで、怖かったのかも知れないな。マクシミリアン、これからは難しい時期に入ってくるのだから、ますますルカ様に心くばりをして差し上げなくてはいけないよ」

「わかりました…ダンテ…」ありがとうございます、と小さくつぶやいて、マクシミリアンがダンテに向かい深く頭を下げた。

「他にも、お前が近くフィレンツェの欧州大学院へ通うために館を離れることまで、ルカ様はご存知のようだ」
「どうして…それを…」
「大方、女中達のお喋りでも聞いていたのだろう、この前私も聞かれたよ『ダンテ、まくしみりあんはとおくへいっちゃうの?』と」

ま、まさか…そんなことまで気づいていらしたとは、どんなに小さな胸を痛めていたことだろう。

ルカ様、私はなんということを…

思いも寄らないダンテの言葉に驚き、眉間の辺りを指で押さえて、マクシミリアンが左右に大きく頭を振った。

大人の話がもうわかるようになっていたのにも驚くが、私に直接ではなく、ダンテや女中に尋ねてというのも心底驚いた。

こんなに近くにいながら、自分の知らないうちにどんどん変わってゆく成長期の彼に、近頃は本当に戸惑う。

「マクシミリアン、お前はルカ様にとって、たった一人のかけがえのない信頼できる守護者だ。自分を守る、唯一絶対の。また愛する人に去られることは、お小さいルカ様にとって耐えられないことなのだよ」


私が彼の、たった一人の…守護…者。

そうだ、私の仕える主人はこの世でたった一人。
彼を命を掛けて守り導くのは、他の誰でもない、この私だ。


ルカ様にとって私がどういう存在なのか、きちんとお話ししておかなくては…





◇◆◇◆◇




「まくしみりあん、さっきは…あの、ごめんなさい」
「いいえ、わかってさえ頂ければ結構です。もうあんなことはなさいませんね」
「んっ、ボクもうしないよ!お残しもしないし、ダンテや女中を困らせたりもしない…だから、マクシミリアン…あのね…」

ん?どうなさいました?とちいさな顎を触ると、恥ずかしそうな瞳が俯く。

お祈りを済ませ、寝巻きでベッドに入ったルカの隣で、マクシミリアンがそっとその黒髪を撫で漉きながら、お話してごらんなさい、と静かに促した。


「あの…明日からはボクと一緒に…『おしょくじ』をして欲しいんだ…」


ただ一緒に食事をしたいと。
これが…我が主人のUn piccolo augurio(小さな願い)だと言うのか。

抱きしめるために延ばした手を、堪えるために強く握り締める。
こんなことすら叶えてやれない、自分の無力さがズキンと胸を締め付けた。

「それは、何度もお話しておりますように、使用人である私とパドローネ(主人)である貴方様とでは立場が違います、一緒のテーブルで食べるわけには参りません」

「だって、いつも、マクシミリアンがボクを寝かせた後、厨房で女中やダンテ達と楽しそうにお食事をしてるのをボク知ってるよ!いっぱい笑い声がして、とっても楽しそうで…あそこでボクも一緒に食べたい。ねぇ、お願いマクシミリアン!」
「ルカ様…」

寝かしつけたあと、屋敷の使用人達と夜食を摂ることもたまにあるが、まさかそんな所まで自分のことを追いかけていたとは思わなかった。

「ダメです、そんなことをしたら、私もダンテもローマのお父様に対して申し訳が立ちません」

「絶対内緒にするからだいじょぶ!ボクね…ちょっとでもいいから今マクシミリアンと一緒にいたいんだ…だって、もう少しして葡萄が赤くなる頃には、マクシミリアンがお勉強しに『だいがくいん』に行っちゃうって、ボクにだまって遠くへ行っちゃうって…うえっ、うえっ…ヒック」


黒い大きな瞳を懸命に瞬きさせて、涙を堪えている様子がいじらしい。
自分の腕の中で、小鳥のように震えて必死に訴えている小さなパドローネ。

大事な主人にこんなに悲しい思いをさせていることを、気付いてすらいなかったとは。


ドンから、ご養育を任された者として、こんなことでは…失格だ。


「ルカ様…」

ここは、心を鬼にして、お聞き分け頂かなくては、とマクシミリアンが静かに強く言葉を繋いだ。

「貴方は私の何なのか、お分かりですね?お口で言ってごらんなさい」
「うん…あの、ぱ、ぱどろーね…でしょ」

「ええ、私のパドローネは生涯ルカ様只お一人です。他の誰かの為に生きることも、死ぬこともありません、生涯貴方様だけを命に代えてもお守りいたします」
「うん…でもじゃぁ、どうして、どうしてここを出ていくの!ボクを置いてどうして…うわぁあああん!」

ついに堪えきれずに泣き出した小さな肩を掴み、腕の中に強く抱きこみながら、よしよしと背中を撫でる。
大粒の涙が零れる頬に思わず自分の頬を擦り付け、小さな頭を手のひらでそっと包んだ。


「誰にお聞きになったのかは知りませんが、私はここを離れるわけではございません」

涙でべとべとになった顔が、えっ?!と一瞬驚いて胸から離される。

「確かに私はこの秋からフィレンツェの大学院へ進みお勉強をさせて頂きますが、平日も夜にはなるべく館へ戻って参ります。そのためのセスナの手配もドン・カルロにお願いいたしました。試験のときなどは帰れない日もあるかもしれませんが、毎週末はもちろん、長いお休みには必ず帰って、たくさん遊んで差し上げます」

「ほんと?…ほんとなの?!ボク、ここで待ってていいの?」
「ええ、しもべである私が主人であるルカ様のもとを離れることはございません」

一転、輝くような笑顔の天使が腕の中でぴょんぴょんと飛び跳ねた。
そして次には安心して力が抜けたのか、急にくったりと首に小さな腕を回して来る。


「まくしみりあん……だっこ…」

「はい…」


小さな寝息が立つ前にと、マクシミリアンが慌ててその砂糖菓子のように甘やかな耳朶に囁く。

「明日のランチはお外でピクニックをして食べましょう。それならば、私とご一緒に…」



…スー…スー…


安心しきって腕に眠る天使の涙を、マクシミリアンがその長くて細い指でぬぐった。


そして、そのピンク色の頬に、ほんの一瞬唇をあてて。


彼の忠実なる守護者が今、おやすみのキスを落とした。


fine.
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by apacheoffice | 2009-07-07 21:25 | Un piccolo augurio | Comments(6)
Commented at 2009-07-08 20:15
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2009-07-09 00:31
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2009-07-09 00:51
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by apacheoffice at 2009-07-09 11:16
2009-07-08 20:15 の3連投非公開さま
携帯からもお送りくださったのでしょうか。
こんなに長い、素晴らしい感想メッセを、アップした数時間後にすぐに頂けるなんて!
こんな幸せな人間はそういないですよ。本当にありがとうございます。

しかも私の思ってることを全部わかってくださる!それがスゴい。

<彼はおそらく、二人の兄の遊び仲間としてあてがわれたのかもしれな<いけれど、おそらく子供なりに(少年だったかな?)立場を理解して
<一線を引いて接してたに違いない。

と書いてくださって、すごく嬉しかったんです。
孤児であるマクシミリアンが、どんな思いで館での日々を暮らしていたかを思うと、溢れてくるものがありますよね。
運命の糸で繋がったルカとの絆は一番ですけど、ダンテをはじめ館の人々、そしてもちろんドン・カルロと美佳も、たくさんの大人がマクシミリアンを育てて来たんだなぁと。

共犯者、続きが心から楽しみですね。<ドンがいよいよ登場でしょうか

週末また、ここでお待ちしております。
私もそろそろ中身の感想、書きますんで。<笑
Commented by rie at 2010-02-04 22:10 x
ちょうど、本作を読み終わったばかりでした(今、ロッセリーニシリーズに入ってます。次は二男…)

マクシミリアンとルカの幼いころを垣間見れてうれしいです。
マクシミリアンの気遣いが漂ってきました。

このあと、こうなって、ああなるのね、、、、と(くふふ)
Commented by apacheoffice at 2010-02-05 22:40
rieさん
昨日も今日も事務所にゆっくりとご滞在くださったのですね。
<お茶をお出しするのが遅れてすみません

怒涛の8連コメ、新記録!こんなに一つ一つにご感想下さるなんて
本当にありがたく、嬉しく、なんとお礼を申し上げてよいかわかりません。

で、なんだか、恥ずかしいものを沢山お見せしてるんですね私。<笑

ロッセリーニはまだまだ続きが出ますし、スピンオフも充実。
目が離せませんね~。
で、rieさんはこれから次男カプをお読みになるのですね。
読んだら、是非ともまたお遊びにいらしてください。
次男カプのCDも凄いですよ~。
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