立葵

こちらはボーイズラブ小説の二次創作となります。
関心ない方、お子様は閲覧なさらぬようお願い申し上げます。

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日高ショーコ先生、「憂鬱な朝4」より

久世暁人×桂木智之 全年齢、一話完結。

4巻、恒例のコミックス表紙のお花は立葵でしたね。
(憂鬱な朝4巻を読み、CD3を聞いて書いています)

素晴らしい立葵のイラストは、いつもの十五夜様の所より拝借致しました。
十五夜様、いつも雰囲気たっぷりの素敵イラストありがとうございます。

では、花言葉で書く小さなお話を。



     ↓






狭い路地で遊ぶ子供達。

鬼ごっこの鬼は大人が思うよりずっと楽しげに、列の後を走り抜けてゆく。

町屋の一画にある小さな一軒家に、ほんの少しの身の回りのものを持って移り住んでから
僕は初めて「人の暮らし」というものが、何から出来ているかを知った。

屋敷にいる頃は、出て来る料理の作り方はもちろん、材料さえ見たことがなく
掃除に水汲み、かまどの焚き付けのやりかたすら解らなかったのだ。


「そんな事を知ったところで、どうなさるおつもりですか?」

人には人の分というものがございます…


そう言って人差し指で押さえた額をクラリと右に傾ける男。

美しく顰められたその眉や瞳が、今は手に取るように想像出来る。


多分、もう二度と逢えないと思っても。

それでも僕は嬉しかった。

離れていても、いや離れているからこそ。
心に彼を描くことが許されるのだから。




- - - -




身の回りの世話を頼んだトミさんに、最初に教わったのは、家事の中でも一番に重労働と思われる風呂焚きだった。

市中にようやく普及し始めた水道管も、屋敷とは違って、まだこの下町までは届いておらず、昔ながらの井戸からいちいち手桶に汲んで運ぶ。
最初の上水は濁っているから捨て、冷たい水が上がってからうやく水場や風呂桶に繋がる木枠へと流すことも教わった。

数十回は注いでも、風呂桶のまだ半分も溜まっていないことに驚く。

それは寒い冬でも汗を掻くほどの大した力仕事だった。

その次は火。

竈に薪をくべ、その前に細く割った付け火用の小枝と木屑を山形に盛り、マッチで火を付ける。
あとは火吹き竹で、消えないように気をつけながらフゥフゥと空気を送り、太い薪に燃え移るまで吹き続けるのは意外に根気が要る作業で。

今まで気にも掛けずに入っていた風呂に、これほどの労力が掛かっているとは夢にも思っていなかった。

さすがにこれは年老いたトミさんに任せるわけにもいかないと、それからの僕は、家にいる時は自分で、会食などで時間の取れない時は風呂屋へと通うことになる。

番台に木戸銭を払い、脱いだものを籠に入れる。
入ってすぐ掛け湯をし、身体をざっと洗って初めて湯に浸かることが許されるらしいと、そんな作法も見よう見まねで覚えた。



何でも見て、何でも知りたい。

その全ては彼へと続いている。


たとえ望まれた道でなくても、いつか本当に人生が離れゆくその時に。


僕があの日のようにまた、たった一人になるその時に。


ただ一言。


心配ないと、言いたいだけなんだ。



- - - - - -




それから半年ほど経った、ある花冷えの日に。


再び彼を腕に抱く、信じられない時が訪れる。


僕の下で身を捩る美しいその背中を、狂うほど愛おしいと思った。


もう、逢えないと思っていたことも。

それでも構わないと思っていたことも。

抱き締めた瞬間すべてを忘れ、気づけば彼の全てを蹂躙し尽くしていた。


譫言のように僕の名を繰り返す男が、何かを思い切り、何かを捨て去るような遠い目をしていたのは何故なのか。

いくら知りたいと望んでも、薄赤い唇をいくら吸い尽くしても、言葉一つ出てこないのを僕は知っている。


そして激情の嵐が去った後。

男の為に心を込めて風呂を焚き、一人、銭湯へと向かった僕は


今こうして、大きな湯船に浸かり、ただぼんやりと、冷たい滴の落ちる天井を見上げているのだった。


あの熱く白い肌は、震える身体は幻だ。
高まる快感を逃がすように息を吐き、何度も腰を跳ね上げ切なく悶えた、あの掠れ声は夢。


桂木智之…


今頃は、薄い布団からその身を起こし、情交に荒れた素肌を湯に浸して静かに禊いでいるだろうか。
銭湯に入る前に車屋を呼んでおいたから、木戸前に姿がないのを確かめてから帰ればいい。


僕が戻る前に帰ってくれと言った時、静かに伏せられた黒い瞳を一生忘れることはないだろう。


白い湯気の中で、ふと心に浮かんだのは、懐かしい幼き日の風景。

初めて久世の屋敷へと向かう途中、車から見えた晩夏の空き地には淡紅色の鮮やかな花が連々と咲いていた。


幅の広い葉の葉脈が生き生きと陽に透けて輝き
その背丈はまるで、大志を抱く若者のように天に向かって伸びている。

天涯孤独、独りぼっちになった僕には、その強さが何より羨ましく思えたのだ。


花の名は立葵。

人に植えられたわけでもなく、ただ野に咲く花なのだと、後に学園の図書室で見て知った。


これから先、何が起きたとしても、僕は自分の大望にのみ従って生きる。


たとえ地獄の果てに堕ちても本望だ。


あの日見た淡紅の花のように、どんな小さな空の下にも生はある。

どんな場所にも、力強い人々の生、激しい想いがあることを


今、僕はこうして、知り得たのだから。




fin.
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by apacheoffice | 2013-02-01 13:06 | 他作家様作品での創作 | Comments(6)
Commented by かちゅ♪ at 2013-02-01 22:50 x
あぱっしゅさま、こんばんは~~♪
大好きな日高ショーコ先生の「憂鬱な朝」のSSをUPしてくださったということで、早速飛んでまいりました。

>そう言って人差し指で押さえた額をクラリと右に傾ける男。
>美しく顰められたその眉や瞳が…

か、かちゅらぎさま…色っぽいです!
私もクラリときました~~(萌)
そしてそして、PCの前でハァハァしながら、暁人と一緒に美しい桂木を思うさま蹂躙^^*するという幸せに浸らせていただきました。

そして、愛する桂木を抱いた余韻に一人浸る暁人も、とても色っぽいです…。
桂木への想いをつらぬく覚悟を決めた彼は、本当にもう怖いものなしですね。ちょっと嫉妬メラメラですが…(えっ)

自称(笑)暁人に負けないくらい桂木命!なので、この作品の二次が読むことができてとってもうれしいです。
細部の描写まで丁寧で、時代の雰囲気がすごく伝わってきました。
ステキな作品を本当にありがとうございます!!!
またお時間のあるときにでも、ぜひぜひ次作もお願いします^^*

立葵って野に咲く花だったんですね。知らなかった…。
人の手で丹精こめて育てられた庭の花のように思っていました。
Commented by lovelove-voice at 2013-02-02 00:04
あぱっしゅさ~ん♪
ステキなSSありがとうございました。
そして羽多野クンのモノローグとして変換された
自分の脳&空耳に感謝(笑)
特に羽多野クンの”し”が好きなあたしとしては

>いくら知りたいと望んでも、薄赤い唇をいくら吸い尽くしても、言葉一つ出てこないのを僕は知っている。

ここお気に入りです☆(ピンポイントフェチですみません)
Commented by Apacheoffice at 2013-02-02 00:05
かちゅ♪さま~!
早速のコメント恐縮でございます~(>_<)ゞ
実は私、最初は暁人さまに一生懸命に手押しポンプを突いて貰ってたんです。
でも調べてみましたら鉄製のポンプは昭和初期のものでした!
季節のことなど事前にご協力頂き
大変助かりました、ありがとうございました!m(_ _)m
次巻はいよいよクライマックスでしょうか、しっかりと桂木様の愛を見届けて涙したいと思っております。
Commented by Apacheoffice at 2013-02-02 00:44
ぼたんさ~ん、そうですとも!ありがとうございます!
渉の「し」は最高に色っぽいですよ!!
ああまたご一緒にCD 聞きたいです。(^_^)/
憂鬱な朝は本当に声でも名作ですね。もいっかい、聞いてきます!
Commented by まるまる at 2013-02-02 13:23 x
こんにちは~
素敵なSSをありがとうございます(≧∀≦)キャー
ぶっちゃけCDしか聞いていない上に、1の途中までしかきいていません。
完結してないし、何て言うかハラハラしてしまって
聞いてしまうのが勿体無いのです。
BLCDは危ういジャンルなので、うっかり完結まで発売されないという
恐ろしい事態になりかねませんが、完結まで暖めておこうかと(笑
平川さんが私の最萌え声優なので、辛抱しきれないかもしれませんが(爆

Commented by apacheoffice at 2013-02-02 21:55
まるまるさん、ありがと~~っ。

CD1をお聞きになったってことは、このSS読んだら軽くバレ…
<3聴くときまで、忘れといてくださいね(^_^;)

平川さんの優しいお声がお好きなんですね。
この桂木は、平川低音の最高峰ですよ!

そして、その冷たい低音が、きっと5巻(CD4)では、最高の…ああっ!
この落差、ギャップも平川さんの魅力。
完結までご一緒に楽しみましょう~♪
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